ラグビーは1人では勝てない。でも、1人のせいで負けることはある。
憧れの舞台でチームの勝利に貢献するため、地道な努力を積み重ねてきた選手がいる。長崎北陽台高校の大町佳生だ。今年3月から行われた全国選抜でも群を抜く活躍を見せた佳生が、高校ラグビー最後の舞台となる花園に懸ける想いを辿った。
2004年1月、佳生は長崎県大村市で生まれた。幼い頃から2人の兄・和生と尚生の背中を追いかけ回すやんちゃな末っ子。「保育園で遊んでいたときに消化器倒しちゃって、真っ白になったこともあります」と、当時のやんちゃっぷりを満面の笑みで思い出す。佳生がラグビーを始めたのも、保育園がきっかけだった。通っていた保育園の先生に、地元の大村ラグビースクールを紹介してもらい、見学に行った。
「ラグビーをしているというよりも、楽しく遊んでいる感じでした」
ボールを持って自由に走れるところに楽しさを感じ、スクールに通うことを決めた。3兄弟の中でラグビーを習い始めたのは末っ子の佳生が最初。その後すぐに兄2人も一緒にスクールに通うようになった。
中学入学後も大村ラグビースクールでプレーを続けた。試合に出場する機会も多くなり、より本格的にラグビーのことを考えるようになった。そんな佳生のラグビーに対する意識を大きく変えたのが、中学3年時に長崎県選抜として出場した全国ジュニア大会。強豪大阪府選抜との拮抗した試合で、試合終盤に1トライを許し、逆転されてしまった。
この試合を振り返り「同点だったときに、自分がプレースキックを外してしまった。チームのマインドも変わったし、試合の流れを変えてしまった」と敗戦の原因を自分に向ける。チームとして勝ちきれなかったことに対する責任を強く感じる試合となった。
大会後、佳生は進学先に長崎北陽台を選んだ。「お兄ちゃんも2人とも北陽台だったし、小さい時から行きたいと思ってました」と憧れのチームで高校ラグビーに励む将来を見据えた。
今や中心選手としてチームに不可欠な存在となった佳生も、入学したばかりの時期は上級生とのスキルレベルの差に苦しんだ。「自分もめっちゃ下手だったし、周りの仲間とかは試合出てたけど、自分はあんまり出れる機会もなくて悔しかった」
しかし、うまくいかないプレーに悩みながらも練習に励む姿勢を変えることはなく、スキル習得のための努力を惜しまなかった。1年時からリザーブとして年末の花園にも遠征したが出場機会はなく、本格的にスタンドオフとしてチームの牽引を任されたのは翌シーズンからだった。
2年生でありながら、スタンドオフという重要な役職。さらに、その年のキャプテンを1歳上の兄・尚生が務めていたこともあり、チームへの想いは強かった。試行錯誤を繰り返しながら準備を重ね、昨年12月、初めて花園のグラウンドに立った。
強く印象に残っているのは東海大大阪仰星との3回戦。勝てばベスト8という大事な試合だったが、「そんなに緊張はしてなかった」と当時を振り返る。試合中盤、12-7まで点差を詰めた我慢の時間帯、キックオフ後に佳生の蹴り返したキックが短くタッチを割ってしまい、そのラインアウトを起点にモールからの連続攻撃でトライを許してしまった。この試合を最後に当時の3年生は引退。佳生は「自分のゲームコントロールとかマネジメントの部分で、まだまだな実力が出た試合でした」とベクトルを再び自分に向け、1年後の成長を誓った。
最終学年となった今年。新型コロナウイルスの感染拡大により、9月は部活動も自粛期間が続いた。モチベーションを維持しにくい状況の中でも、「練習の質」にこだわって自主練を続けた。
チームで課されていた2日に1回のフィットネスとウエイトのメニューに加え、佳生はキックスキルに時間を割くことを選んだ。秋シーズンの全国大会予選から採用されることが決まっていた試験的実施ルールの「50-22」で、自分のキックスキルを最大限に生かしたいと思っていた。約1ヶ月の自粛期間を終えてチームは活動を再開し、花園予選に向けて最終調整に入る。コンディションも順調に回復し、大舞台への予選に挑む準備は整った。
チームの雰囲気も仕上がり、長崎北陽台が花園予選初戦を勝利で飾った翌日、佳生から1件のLINEが届いた。
「昨日の初戦練習の成果出たよ〜✌️」
そのメッセージに添付されていた動画には、自陣22m付近から敵陣ゴール前までロングキックを蹴り込み、新ルールの「50-22」で陣地を大きく勝ち取っているシーンが切り取られていた。自粛期間、黙々と練習したスキルを大会初戦から完璧に実行する姿はまさに圧巻だった。「何個かやらかしたけど笑」とまだまだ成長の余地も見せながらも、パフォーマンスは右肩上がりに伸び続け、チームも決勝戦にコマを進めた。
決勝戦の相手は準決勝で長崎南山を破った長崎北高校。相手にペースを握られる時間帯もあり、点差こそ離れなかったものの、それまでとは違った緊張感のある試合となった。「自分の気持ちはコントロールできたし、負けるとは思わなかった」と精神面での成長も感じられた。さらに、佳生はこの日までの予選3試合、通算30本のゴールキックも全て成功させた。自分がチームに貢献しなければいけないところでミスは許されない。その強い気持ちと積み重ねた練習の成果が成功率100%につながった。チームのパフォーマンスについても「1人1人はわかってると思うけど、これじゃ勝てない。今日の試合で締まった感じもあるし、花園までフワフワせずにいけると思います」と前向きに捉えた。
この冬、最後の花園に挑む佳生にラグビーに励む原動力を聞いた。
「自分のためでもあるし、ラグビーで学ぶことはたくさんあるけん、それが(ラグビーじゃないところでも)自分のためになる」より高いレベルでプレーする機会が増えれば増えるほど、人間的成長も自ずとついてくることを、これまでの経験が教えてくれていた。
明日から始まる、佳生にとって最後の花園。「周りをうまく使って、自分がいけるところは攻めて、ボールをつなぎたい。かっこいいプレーはしなくていいから、泥臭く」高いスキルを持ち合わせながらも直向きにプレーする佳生から、今大会も目が離せない。